映画『ラストレター』2020年・岩井俊二監督作品(日本)@イオンシネマ

映画『ラストレター』2020年・岩井俊二監督作品(日本)@イオンシネマ

 

岩井俊二の作品はいつも、観る前は不安だ。何が不安かというと、きれいごと過ぎてくさかったらどうしようとか、フィクションが過ぎて白けたらどうしようとか思うのだ。

しかしいつものように、白けることはなかった。絶妙なバランス感覚で作られた物語を見せてもらった。美しい物語でありながら、現実感もある。きれいごとを言われているわけでないのに、どうしようもなくきれいなものが胸を満たす。

 

登場人物の構成はシンプルでわかりやすい。それぞれの輪郭がはっきりしている。

愛すべき人たちの中で、一人物語に陰を落とすアトウといういわゆるクズ男が出てくるが、彼はただのクズよりたちが悪い。なかなか頭が良くて文学的で哲学的なのだ。人を傷つける時もきっと徹底的に追い詰めるんじゃないかと想像できる。次の奥さんみたいな、どこか諦めているからこその寛容性を持ち合わせた人でないと一緒にいられないだろう。

 

ミサキみたいに美しくてしっかり者で生徒会長をやるような人が、アトウみたいな人と激しい恋に落ちて、最後は極限までぼろぼろになって、生きていけなくなるようなこと、本当にありそうでつらい。

 

こうやって、フィクションでありながら、登場人物の人生を想像し悲しくなったり希望を持ったりして、ふと何やってるんだろうと思ったりするけど、現実においても、結局人の暮らしなんて、自分に関係すること以外想像するしかない。1回しかない人生を何倍も生きるために、人には物語が必要なんだよと言っていたのは誰だったっけ。

この映画は主人公が何人もいるようだった。それぞれの人生を思った。

 

広瀬すず、よかった。どの作品でもその役そのものに見えて、いつも感心する。そして安定感。芯が強い女性を演じる機会が多い印象なので、そのせいもあるかもしれないが、見ていていつも安心する。本人の器の大きさが画面から伝わっているんじゃないかとも思う。若いのにねえ。。すごい。 逆にブレブレのキャラクターも見てみたいな。

 

森七菜、よかった。この演技もなかなか難しいのでは。広瀬すず演じるアユミやミサキに対して、幼さのあるソヨカ、片思いするユウリ。余白の多いキャラクターという役割をまっとうしていた。

ユウリのラブレターは、えらかったね(母親目線)。

 

40過ぎた私は観て思った、

若い頃に発した言葉が、未熟な頭で考えたくせになぜか真理を突いていて、無邪気に発された言葉だからこそまっすぐにきれいに何十年後かの自分に届くって、あるよね。。

吹き抜けの階段に座る二人のシーンとともに、胸をつかまれました。

 

そしてとにかく、画面に映っている何もかもがきれいで。。風景も、人も、家も。犬も。笑

夏の光の中の、少女二人とボルゾイ、美しすぎるわ。

はかない美しさを撮ったという意味でも価値があるよなと思う。