読書感想:『ストーカーとの700日戦争』内澤旬子

内澤旬子『ストーカーとの700日戦争』

エッセイスト、イラストレーターの作者がストーカー被害に遭った実体験を書いた本。

事実は冷静に書かれ、感情は正直に書かれ、被害に遭った後、被害者の人生が一気に暗転してしまうということが、実感としてよくわかった。

そして何よりも、ストーカーは「治療」でそのストーカー行為を止ませることができることがわかったことが衝撃的だった。

事件の始まりは2016年からで、本の出版が2019年であるから、つい最近のことなのが生々しく、関連法の整備についてなどは時代のあることだから、今読めたのは空気感もよく理解できてよかったと思う。(読みたい方はお早めに読むことをおすすめします。)

 

何でも、ストーカーというのは、警察などから警告を受けてハッと我に返ってその行為を止める人間が8割らしいのだが、残りの2割はそうした警告を受けてもなおストーカー行為を続け、もしくは悪化させる依存症的なストーカーであるらしい。筆者が遭ったのは後者のケースで、非常に恐ろしく大きな被害を被ったのだが、この依存症的なストーカーは、薬物や窃盗などの依存症に用いられる行動療法によってその執着を解くことができるというのである。

 

世界では「治療によってストーカーは治る」というのは常識になりつつあるらしく、薬物依存と同じく、逮捕から治療への道筋が整備されているらしいが、例によって日本は遅れているとのこと。私は全く知らなかったし、彼女がこの事件で出会った警察関係者、法曹関係者も知識さえ持っていない者が大半で、非常にもどかしい思いをしたらしい。日本でも法整備が進められつつある途上ではあるらしいが、機関の横の連携を整えることや治療に関わる人材を増やさねばならないことを考えると、亀の歩みであろうことは、悲しくも、何となく想像できる。

 

しかし、筆者が繰り返し声高に訴えるように、何と言っても「被害者が安心を取り戻すために」、加害者への治療は行われなければならないものだと思う。ストーカー加害者の再犯、これ即ち同一の被害者へのさらに大きな加害となってしまうこと、だからだ。筆者は、加害者に治療?なぜそんなに加害者に優しくするの?という声に何度もぶつかったらしい。治療は「被害者のため」が第一義である。

 

フリーランスで身を立ててこられた頭の良い方らしく、被害に遭われながらも、気を強く持って戦われた様は尊敬に値するし、いくら労っても足りない。いつでも、自分のためだけでなく、これから被害に遭ってしまうかもしれない人たちのことを考えて行動されていることも素晴らしい。恐怖されながら、嫌悪感に苛まれながらも書いて、被害者にも加害者にもなり得る私たちに、この本で知識を与えてくれたことに感謝の念を覚える。

 

この本の最後を読むと、それが書かれた時点では加害者からの接触は途絶えてはいたものの、被害者は加害者が出所してから死ぬまで、接触の不安に怯えなくてはいけない(この事件で加害者への治療は叶わなかった)、そしてウェブ上に書かれた誹謗中傷は完全には消えないことから、彼女にとって事件はまだ終わっていないということが、

本当に恐ろしい。