読書感想:『だから演劇は面白い! 「好き」をビジネスに変えたプロデューサーの仕事力』北村明子

シス・カンパニーの社長であり演劇のプロデューサー北村明子さんの著書。

この会社の名前は演劇のチラシやらでよく見ていたが、この会社の社長さんがこんなにすごい方だとはつゆ知らず。少し前にケラさんのツイートで(確かそうだったような。)インタビュー記事を見つけて読んで、日本の演劇界の重要人物であることを知り、そのインタビューも面白かったので、関係本を探して読んだもの。刊行は2009年。

 

ポリシーとしてスポンサーはつけないにも関わらず、プロデュースする演劇すべてが黒字。原点は、食べられない、持ち出しが当たり前だった演劇界の慣習が嫌で、役者やスタッフに還元できる舞台を作ることだったらしい。

 

プロデューサーとしての話と、芸能事務所経営者としての話があって、両方とても面白い。芸能事務所としての話の方では、所属役者を売り込むマネージャーの地道かつ猛烈な営業活動の話が書いてあり、これはシスに所属したいという俳優さんは後を絶たないだろうという気がした。個人個人の持ち味と、行くべき道を正しくサポートしてくれそうなのである。私が役者だったら入りたいもの。その役者さんにとってためにならないと思われる仕事が来たら、それは断る、というのもすごいなと思った。

 

舞台プロでデュースも事務所も、人脈による仕事はなあなあやブレを生むからあえて退け、1つ1つの仕事において誠意と情熱でやっていくなど、清廉潔白なポリシーで成功しているのが感動した。そんなことが人脈命のイメージがある芸能界で可能なんだ、と。大変な努力がないとできないことだと思う。

 

小さい頃から培われた演劇に関するセンスや膨大な知識を最大限に生かして仕事をされているらしいし、もう70代とご高齢でも厳しい姿勢を維持しつつ活躍されているようなので、この方が亡くなられたらシス・カンパニーはさぞや大変だろうと思ったら、本人も後継者の育成は諦めたと書いていた。10年前の著書なので今は考えを変えたかもしれないが。演劇界にも打撃が大きそう。

 

家庭人としての生活も知りたくなった。井上ひさしさんの後書きを読むと、とても懐の深い、皆のお母さんのような人だと。新しいビジネスを切り開いてきた豪傑ながら、深い優しさを持つという女性の人物像についても興味を覚えた。